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福岡高等裁判所 昭和35年(ツ)3号 判決 1960年8月09日

上告人 被告・控訴人 須田トミ

訴訟代理人 木村一八郎

被上告人 原告・被控訴人 矢野喜義

訴訟代理人 渡辺純

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一ないし第三点について。

昭和十二年逓信省令第七十三号電話規則施行当時においては、加入電話の利用関係は私法上の契約に基づく債権であり、電話加入権の譲渡は登録を受けなければ第三者に対抗できないとされていたが(大正六・十二・二十二、同一〇・七・八、昭和三・五・二五、同五・三・二七大審院判決)昭和二十八年法律第九十七号公衆電気通信法によれば、電話加入権の譲渡は日本電信電話公社の承認を受けなければその効力を生じない、という規定(同法第三十八条)が新たに設けられたことは所論のとおりであるけれども、現行法の下においても電話加入権が財産権の一種であることに変りはないのであるから、右の承認を受ける趣旨で当事者が売買その他によりこれを譲渡できないというわけはなく、加入権を譲受けたものは譲渡人に対し公社に対する譲渡の承認請求に協力すべきことを求めることができるから、譲受人は右請求権を保全するため本件のような処分禁止の仮処分を有効になすことができると解するのが相当である。このような仮処分がなされた場合には、仮処分後に加入権に関する権利を取得したものは、その取得が強制執行によると、または任意処分によるとを問わず、仮処分債権者の権利の保全と相容れない範囲においては実体上仮処分債権者に対抗できない、といわねばならぬ。このことは仮処分当時の加入権者より直接権利を取得したものについていえるだけでなく、その後の転得者についても同様である。従つて上告代理人の論旨第一ないし第三点は採用できない。

同第四点について。

本件において被上告人は上告人に対し、自己に対抗することができない加入権の登録抹消を求め、その確定判決を添えて仮処分債務者と連署の上(連署が求められないときは署名に代る本案判決を添えて)公社に対し加入権譲渡の承認請求をなすのが筋道であるように思われるが、登録の抹消について何等の定めもない現行法規の下では、仮処分債権者は仮処分債務者に対し譲渡の承認請求に協力すべき旨の確定判決を得たことを証明して仮処分登録後の取得者である上告人に対し譲渡の承認請求に協力すべき旨を請求することができる(第一審判決主文第一項の「電話加入名義を原告名義に変更申請手続をせよ」とは譲渡の承認請求に協力せよ、という趣旨と解せられる)と解すべきであるから、論旨第四点もまた理由がない。

以上のとおり上告代理人の上告理由はすべて理由がないから、本件上告はこれを棄却し、上告費用は上告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林善助 裁判官 丹生義孝 裁判官 岩崎光次)

上告代理人木村一八郎の上告理由

第一点(上告理由書第一点) 本件電話加入権はもと訴外債務者安藤由広のものであつたのを訴外債権者吉田英雄が昭和三十三年八月十一日大分地方裁判所佐伯支部昭和三三年(ヲ)第二五号電話加入権譲渡命令の執行として該命令の正本を第三債務者日本電信電話公社佐伯電話局に送達し公社が右譲渡を承認したことにより本件電話加入権は吉田英雄に移転し更に同人より同年九月二十二日公社の承認を受けて上告人が譲受けて権利者となつたのである。公衆電気通信法第三八条によれば電話加入権の譲渡は日本電信電話公社の承認を得なければその効力を生じない、旨規定されておる、即ち旧法時代に於ては電話加入権の譲渡は当事者の意思表示のみによりその効力を生じ名義書換は対抗要件に過ぎぬものと解せられておつたが昭和二十八年七月三十一日法律第九十七号による公衆電気通信法施行された後においては同法第三十八条により電話加入権の譲渡は当事者の意思表示のみによつては何等の効力を生じないことは前述のとおりである。従て当事者間の電話加入権の譲渡契約のみに因り譲渡の効力が発生したことを前提とする被上告人の本件仮処分は何等の効力を生ずる余地はない、と謂うべきであり、その結果として、公社の承認の下に適法に本件電話加入権者となつた上告人の権利は被上告人より奪わるべきものではない、即ち、原判決は公衆電気通信法の規定と民事訴訟法の規定する仮処分の効力に関する法令に違背するものであり右違背は判決に影響を及ぼすものであることは明らかであるから到底破棄を免れない。

第二点(上告人の準備書面一) 公衆電気通信法第三八条の三第三項には「電話加入権の譲渡の承認があつたときはその譲渡の承認は第一項第二号の差押又は同項第三号の差押又は同項第三号の差押、仮差押若しくは仮処分との関係においては当該電話加入権の譲渡の承認の請求に係る書類を受け取つた時になされたものとみなす」と規定されておることは被上告人の主張のとおりである。乍然被上告人の本件電話加入権に対する仮処分は甲第一号証によつて明らかである如く訴外安藤由広に対し処分を禁止する旨の決定であつて電話加入権の譲渡の承認の請求に係るものとは謂えない。譲渡の承認を請求する権利の保全ならば不動産登記に関する順位保全の仮登記仮処分の如き形のものでなければならないと考える。

第三点(上告理由書第二点) 仮りに本件電話加入権に付ての譲渡禁止の仮処分が有効であつたとしても既に右電話加入権に対しては強制執行が為され仮処分権利者である被上告人より異議の主張がなく、執行が完了して訴外吉田英雄に移転し更に同人より上告人に譲渡されたものであり、而も右譲渡は公社の承認により効力を生じたものである。譲渡に付公社の承認を必要としない制度の下におけると同一の解釈は許容されるべきではない。取引保護の見地より考えても仮処分の効力を無限に転得者に及ぼすことは明らかに不当と謂わねばならない。此の意味においても原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の違背ありと謂わねばならない。

第四点(上告人の準備書面二) 仮りに右仮処分が被上告人の主張の如く有効であるとしても原判決――従つて一審判決――が上告人に対し本件電話加入権の加入名義を被上告人名義に変更申請手続をせよと命じたのは失当である。上告人と被上告人との間に加入権譲渡の承認申請をすることについての何等の契約もなく又不法に被上告人が上告人名義の加入権を自己名義に変更した事実もないのである。公衆電気通信法上本件の如き場合に被上告人に対し上告人が加入権譲渡承認の申請手続をしなければならない旨も定めておらない。従つていずれにしても原判決は失当であるから本訴請求は棄却されねばならない。

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